シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー「聖なる怪物たち」

2009年12月18日(金) 19:00 - 20:15 東京文化会館


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これはいいものを見てしまった。
自分が見たシルヴィ・ギエムのステージでは最高のものだろう。


ステージはとてもシンプルな構成で、
向かって左に3人、右に2人の演奏家が配され、
劇中の音楽はすべて彼らによってまかなわれる。
そして、中央の何もない空間で、
シルヴィ・ギエムとアクラム・カーンが時間を占拠する。


右サイドの2人はヴォーカル担当。
そのうちの1人、ジュリエット・ファン・ペテゲムは、少女を思わせる風貌で、
ときにシルヴィ・ギエムとアクラム・カーンに寄り添うように、
ステージ上を漂いながら声を交える。
この人数で産み出される世界観には単純に驚かされる。


作品の基本コンセプトはアクラム・カーンによるものだろう。
1974年生まれで両親がバングラデシュ人の彼はロンドンで生まれたイスラム教徒。
とはいえ、作品全体を包む東洋的な雰囲気は、
自分の記憶の中ではインド映画に近似している。
とくに荘厳でありながらとてもリズミカルで楽し気なメロディに違和感なく変容できる音楽は、
フィリップ・シェパードという作曲家によるものだが、
シルヴィ・ギエムの居合いを思わせ凄みのある踊りと、
楽しい音楽と踊りとを見事に融合させるのに一役買っている。


シルヴィ・ギエムの動きには、人間だから仕方ないと思えるような不安定さがなく、
マシーンのように揺るぎない軌跡を描いてピタッととまる。
軸の安定したすばやい回転は鋭く、身長が高いので迫力がある。
回転見るたびに溜息がでる。
年齢的な衰えはあるのだろうが、
それでがっかりさせられることはなかった。


この策品(「作品」の誤変換)はコメディだった。
ダンスの合間にシルヴィ・ギエムとアクラム・カーンの間でリハーサル中のような会話が交わされる。
ギエムは英語、仏語、イタリア語、日本語を交える。
シルヴィ・ギエムが話す、セリフかもしれないが、
日常会話のように声を発するシルヴィ・ギエムを見ることができたのは、
頭に鉄槌を喰らうような感覚だった。
映像では伝えきれないシルヴィ・ギエムの人となりのようなものが、
脳みそにダイレクトに伝わってくるような感覚。


終盤になるにつれて、音楽、ダンスともとても楽し気になってくる。


劇中のセリフに出てくるèmerveilleというフランス語は、
この作品にぴったりだった。


聖なる怪物たち」に近いものを自分の記憶の中で探すと、
ピーター・ブルックの「The Man Who」や「ハムレット」が思い出される。
大道芸のように、お客さんを楽しませるようなステージ。


このステージだったら、あと2、3回は見てもいいな。